工藤庸子, 放送大学教授,
eternel imparfait

(書評)レオン・ポリアコフ『反ユダヤ主義の歴史』全5巻、菅野賢治、合田正人、他訳、筑摩書房、2005-2007年

2007年 4月 8日

書物について書くことは学ぶチャンスと考えています。東京大学出版会の広報誌UPに書評を書きました。枚数にはゆとりがあるかわりに、広い関心を呼びさますよう、大きな文脈で語る。そう考えて、半年に一度ぐらい、これぞと思う対象にとりくむようにしています。

原著では四巻からなる『反ユダヤ主義の歴史』は、それぞれがライフワークといえるほどの偉業です。たとえ四回の人生を生きても、レオン・ポリアコフほどの知性と精神力がなければ書けるものではない。粛然として真の学問研究に向きあいました。

原稿締切の当日に邦訳の第五巻がとどきました。両大戦間の記述で一旦完結した単著の続篇であり、現代にいたるまでを共著として書きついだもの。邦訳は五巻本となったわけですが、その「訳者あとがき」で菅野賢治さんは「六年前、出版社数社に打診し、企画書さえ見てもらえずに落胆していた頃のことを振り返ると、全五巻の完結を見た今日という日が、まさに夢、奇跡のようでもある」と記しておられます。

この五巻本の翻訳は、なんと二年間で完了し、訳文がじつに見事であるだけでなく、周到にして詳細な訳注つき、最終巻には全巻の事項索引と人名索引までついていたのですから、これはもう唖然としました。

もうひとりの中心的な訳者は合田正人さん、そして小幡谷友二さん、高橋博美さん、宮崎海子さんの若手三名が共訳者として参加しておられます。出版企画の全体像に敬服しました。

キリスト教のヨーロッパは、ユダヤという「他者性」を根拠づけるために「人種」という枠組みを営々20世紀以上にわたり構築してきたわけですが、この事実は、壮大な歴史のパノラマを視野に入れなければ実感できません。

それにしても19世紀末、ドレフュス事件の時点で、フランスの総人口のなかでユダヤ人が占める割合は0.2パーセントだったというのですから、歴史とは数値の問題ではないのですね。

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