工藤庸子, 放送大学教授,
eternel imparfait

横浜開港から多文化共生へ

2008年 8月 12日

放送大学の神奈川学習センターから講演会の依頼がありました。2009年は横浜開港150周年に当たり、Webで検索してみると、プレイヴェントの花盛り。篤姫様にあやかって、維新は流行のテーマだし(と言われたわけではありませんけれど)、フランス関係で何か面白いお話はありませんか。という感じの打診でした。どちらかというと破壊的なことをやりたいわたしは気に入りません。今さら、「国際都市横浜」なんて……。

そもそも「国際」って何でしょう。インターナショナル。ネイションとネイションのあいだ。たしかにそれは「国」と「国」のあいだの問題でした。「上様、ハリスにお会いなさいませ」と篤姫様が言うときに、問題となっているのはひとりの「人間」ではなく「日本国」と「アメリカ」であるわけです。こうして横浜・神戸・函館は、「外国」をお迎えする「日本国」の玄関口として開け放たれました。でも、それは150年前の話。

21世紀のわたしたちは、「黒船」ではなくて、「ボートピープル」や「いちょう小学校」のことを話しましょうよ―これがわたしのアイデア。フェスタ実行委員会の木村さんと初めて電話で連絡をとりあった直後、6月29日「朝日新聞」の朝刊のトップに「10ヵ国語の『おはよう』」という大きな記事が載りました。ね、だから言ったでしょ! と喜んだのは、わたし一人かもしれませんけれど。

横浜市立「いちょう小学校」は、インドシナ難民の定住促進センターを足場として、東南アジアの人々、中国残留日本人孤児の家族などが集住するようになった地域にあります。外国にゆかりのある生徒が半数以上。学校のなかでは10ヵ国語の「おはよう!」がとびかうという「多文化共生」のモデルスクールです。

「多文化共生」と「インターナショナル」とはちがうのですね。英語でもフランス語でも、とにかくヨーロッパ系の特権化された言語がひとつあり、ほかの言語を母語とする子どもたちも、その「公用語」を習得し、使用することを義務づけられる。たとえ地元の言葉であろうとも、英語以外、フランス語以外の「おはよう!」は口にしないこと。これが世界中にある「インターナショナル・スクール」の教育理念です。

「多文化共生」というテーマは、多角的に、そして現場の目線でとらえる必要があるでしょう。グローバル化とか、ネイションや国境とか、東南アジアとか、ベトナム戦争とか、インドシナ難民とか、ニューカマーの子どもたちと日本語教育とか、芋づる式に関連のテーマが見つかりそうですね。いろいろと本を注文して……。直前に勉強します。

今回は、講師がひとり壇上で演説するのではなくて、学生参加にしようという企画。もうひとつのアイデアは、放送大学の面接授業でベトナム語を担当している小川有子先生にもおいでいただくこと。

アジア研究の若手と交流するのは、じつに新鮮で楽しいのです。「横断的」とか「学際的」とかいうお題目を掲げなくとも、おのずと総合的な視野が開けてゆく、まさに若々しい学問の魅力、かな。もちろん個人の趣味でやっているのではありません。放送大学は「多文化共生とアジア」をテーマにすべきである。断固として、そう考えているのです。「国際化とアメリカ」を排除せよ、とは言いませんけれど……。やっぱり、何かをこわしたがっているように見えますか?

放送大学の外国語のサイトには、ベトナム語とインドネシア語の立派なウェブ教材が立ち上がっています。そして南関東の学習センターで開講されている面接授業の初修外国語(英語以外の、大学で初めて学ぶ外国語)が、ちょうど10ヵ国語になりました。10ヵ国語の「こんにちは!」 もちろん挨拶だけでなく、オトナのための異文化理解の授業になるように。目下、来年度に向けた教材開発にとり組んでいます。

放送大学 外国語学習と異文化理解ウェブサイト

ところで。講演会のタイトルを見た人に「フランス」はどこに行ってしまったの? と聞かれそう。まあ、インドシナ半島は、ほぼ1世紀、フランスの影響下・支配下にあったわけですし、ヨーロッパとアジアとの異文化交流の成果であるところの香り高いベトナム・コーヒーを、カフェで出そうという話もありますから。

放送大学神奈川学習センター学園祭(講演会の案内)

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